2013年9月2日月曜日

[error:0650] TRPGノベライズ/メタリックガーディアン「砂漠を駆ける疾風」(第二章)

.
【第二章 レース】

レース当日がやってきた。

この砂漠の王国の基準でも、特に暑い日だった。このためだけに首都の外れの砂漠に王国の威信をかけて建造された、一周三マイル、トラック幅百三十五ヤードの怪物コロシアムは、宿を取れなかった連中のテント村に包囲されていた。革命の現場かとさえ思われた。どこまで本当なのか、百万人目の入場者が高級車を贈られる様子が電光スクリーンに映された。会場内外の露店では、砂漠では高価な果物や清涼飲料水が飛ぶように売れた。貴賓席の国王と長男は、それぞれ別の意味で御満悦だった。

バックストレッチには三つの障害物が用意されていた。

まずは、ひと山の高さ二十フィートから四十フィートの丘陵地帯が三百ヤードに渡って続く。ここは脚の長い大型機が有利である。

次に高さ五十フィート、奥行き百五十ヤードほどの、頑強な鉄筋コンクリートの箱がコースを塞いでいる。ただし、隅の方に高さ二十フィートのトンネルが開いている。ライトニングのような小型機はトンネルを通る事ができ、大型機は天井を越えて行くことも可能だが、どっちつかずの中型機には難関となる。

最後に、奥行き二百ヤードほどの泥水のプールがある。水深は二十フィートあまりで、中小型機では防水装備か浮航装備がないと沈没するか、そうでなくとも膝上まで埋もれてしまえば脚の自由が利かず、相当に難儀するだろう。ただし中央に幅十フィートほどの通路がある。これは逆に、大型機が渡る事は困難だろう。

全体として大型機が有利なように見えるが、大型機は絶対数が少なかった。そして一機だけがゴールしてもチームの勝利にはならない。チームの全機がゴールした時点で、そのチームのゴールとみなされる。

機種によっては、これらの障害は突破不能な場合がある。救済策としてコース外側に迂回路があるが、相当な遠回りとなるのは間違いない。迂回路以外のコースアウトは失格である。他チームを故意に妨害しても構わない。

午後のメインイベントまでホームストレッチだけを使用して、前座のラクダレースやサッカー試合が催された。もっとも炎天下の砂地で行うサッカーは、コメディショーかと思うほど選手たちがバタバタ倒れたが。

そしてガーディアン云々を一切抜きにしても、当然ながら警備の手は全く足りていなかった。チケットなしで忍びこむ連中も相当数に及んだが、まさかその中にファティマ姫が含まれていようとは、誰も予想しなかった。そしてそれに気付く者が居たことも。いや、案外ファティマを手引きしたのはそいつかも知れなかった。

突如、盛大なファンファーレとともにスタート地点脇の地面が開いて、各チームが順次、地中から大型エレベーターで現れた。観客の熱狂は、分厚い合金の装甲でも防ぎきれずコクピット内に直接聞こえうるほどとなった。




超雄星はチームナンバー十三の面々をそれなりに勝つ気にさせるよう、逆効果なほど過剰な、雰囲気作りの努力を尽くしてきた。だがそれよりもはるかに効いたのは、グリムチェーキのチームナンバー四が本気らしいという情報だった。ナンバー四の拠点は夜中でも照明が切れることがなく、優勝してもモトが取れないのではないかと思われるほど、チューンパーツ屋が頻繁に出入りした。

そればかりか、下馬評で最有力とされていたチームナンバー一が試合三日前になって謎の棄権に及んだことは、巨大な疑惑を呼んだ。確たる証拠はなかったが、フォーチュン情報部は秘密裏に、チームナンバー四による買収または脅迫の存在をカガ=リンに示唆した。カガ=リンは緘口令を敷いた上で、彼らがそこまで優勝したがる理由について、調査続行を指示した。

チームナンバー十三には、専門のメカニックチームも資本もなかった。レース用に大がかりな装甲やパーツの換装どころか、過剰な練習で機体を磨耗させるわけにもいかなかった。できることはせいぜい装備品の取捨選択と、コース見取図を囲んでああでもないこうでもないと作戦を練るぐらいしかなかった。しかもペインらは基本的に、本来の警備任務にかかりきりになっている。

だが少なくともチームナンバー四だけは勝たせてはまずそうだという認識だけは、メンバー間で共有されつつあった。

試合当日、彼らは各チームから提出された最終メンバー表に基づく確定版の“競馬新聞”をチェックした。チームナンバー七のひとりが顔の下半分を鉄板と包帯でグルグル巻きにしながら、ただでさえ悪い目付きを一層憎悪に歪ませている取材写真を見て、超雄星は噴き出した。ところがアリシアは、チームナンバー四の出走機種がおかしいと指摘した。

アリシアによると、グリムチェーキは重戦車型ガーディアンであるディザスター級の乗り手で、グリムチェーキの子分らのうち一人は中型の廉価普及機であるミーレス級、あとの四人はミーレス級の上位モデルであるカバリエ級を使うはずだった。だが“競馬新聞”に載っている写真とスペック表は五機とも、ミーレス級がベースと思われるカスタム機だ。ミーレス級は比較的誰にでも操縦し易いとされるタイプだが、傭兵が専門外の機種を使うことは、いくらレース専用に特別に用意したマシンだとしても考えにくかった。

メンバーたちが首を捻りつつも、出走者の集合を求める放送が流されたところに、フォーチュンの伝令が現れた。電話や無線を使わずに生身の伝令を寄越す事自体、機密性の高い情報である証拠だが、今回は極めつけだった。例えば会場に爆破予告が届いた、ごときの話ではなかった。

優勝トロフィーに埋め込まれている王家秘蔵の大宝玉ゴプラームが、世界最高品質クラスの“アビスシード”だと判明したのだ。

アビスシードは、アビスエネルギーを直接取り出すべく、異次元アビス空間への通路“アビスゲート”を開くための鍵だ。エネルギーの形で人体に宿る場合も多いが、単体で物質の形態を取る場合は特定の組成と格子欠陥を備えた鉱物結晶の類いが一般的で、ゴプラームもその典型例である。

そしてフォーチュン技術部の見たところ、ゴプラームの品質で全力を発揮させれば、どれほど巨大なアビスゲートが作れるか見当も付かないという。最悪の場合、このシャリフ王国ぐらいは丸ごと呑みこまれてしまうかも知れないし、地殻が物理的に粉砕されるおそれさえあった。スポンサーであるラーフ帝国がそれを好ましいと考えるかはともかく、ディスティニーの自爆テロリストたちにはさぞ甘い誘惑だろう。

フォーチュン本部は、ただちに大会の中止またはトロフィーの差し替え、およびゴプラーム実物の差し押さえを、運営委員会に強く要求する決定を下した。だがトラック地下の格納庫ではすでに最初のチームナンバー二がエレベーターに搭乗しつつあり、国王はホームストレッチ横の演壇に移動して、その危険極まるトロフィーを誇らしげに見せびらかしていた。

「どうやら我々は本当に、何としても優勝せねばならなくなってしまった」カガ=リンは、怪しまれないようにありがちな円陣を組むと、小声でメンバーに語りかけた。「ナンバー四は論外として、それ以外のチームも、爾後まで絶対安心とは言い切れん。今のところ、吾輩が信頼できるのは諸君だけだ。すまないが、ここは力を貸してくれたまえ・・・」

「水臭いネ。だいたい、ワタシの頭には初めから『冠娉(優勝)』の二文字しかないアル。ちなみに、トロフィーはフォーチュンにあげてもいいけど賞金はバッチリもらうネ!」
「まずはグリムチェーキよりトロフィーってわけかい。まぁ、いざとなれば、チカラづくででもウバいとるまでさ」
「大きな声では言えないが、しょせん、国王の遊びのはずだった・・・こんな危険なゲームになるとはな」
「とんだことになりましたが、未熟ながら全力を尽くします。地球市民として、命を賭けるに値する事態です」

チームナンバー十三は、掌を集めて気合いを入れた。それは運営スタッフからも他チームからも、ありふれた微笑ましい儀式に見えた。




彼らが最後にエレベーターで地上に上がって、十二チーム六十機のガーディアンが勢揃いした。観衆は喜んでいたが、この国の旧式な通常兵力だけなら軽く撃破できかねない戦力なだけに、軍高官などは気を揉んだ。

装甲の上から申し訳程度にゼッケン十三が巻き付いただけの共通点しかない、不揃いな機体の集団は、誘導員の手旗に従ってスタート地点に向かった。一番大きい百二十フィートのディオネード機と、一番小さい十二フィートのペイン機では、身長に十倍の格差がある。五十五フィートの超雄星機は、のっぺりした石像のようなディオネード機以上に奇抜なデザインであり、二十七フィートのカガ=リン機とアリシア機は、レムリア製の派手な装飾が付いた甲冑姿だった。

カガ=リン機はファンタズム級と呼ばれる、軽量な機体に強力な防御フィールド発生装置を備えた、俊足かつ堅固な突撃戦仕様機だ。ただし自らの防御フィールドが邪魔になるがゆえに、遠距離射撃戦は得意ではない。飛行モードも備わっているが、レースでは使用禁止となっている。

ファンタズム級はレムリア人が好んで乗るタイプであり、アリシアもかつては新鋭機を使っていたが、それはあの忌まわしい戦いでスクラップになってしまった。その後、アリシアは別の戦場跡でどうにか修理可能な中古を拾い当てたが、カガ=リン機より旧型でやや鈍重、飛行能力もない。武器も半ば廃品の鉄パイプのごとき、長さ四十フィートの槍を抱えているのみだった。

カガ=リン機は、本体同様にくどい装飾が刻まれた、刃渡り十三フィートの特殊合金の長剣を腰に提げている。任務によっては銃器を使用する場合もあるが、今回は最低限の妨害対策を講じつつも軽快性を重視する必要上、銃火器はペイン機のショットガンだけと決めていた。ディオネード機と超雄星機は、もとよりその身ひとつで戦う機体だ。

スタート配置は、横幅百三十五ヤードに三チームずつが四列で並べられた。チームナンバー十三は、昨日の抽選会で運良く最前列外側を引き当てていた。隣がチームナンバー三、さらに内側がゴロツキどものチームナンバー七だ。チームナンバー四は最後尾だったが、抽選所にも来なかったグリムチェーキが歯噛みしたか、それとも余裕の表情だったかは、藪の中だ。

だがそれでもなお、チームナンバー十三はぶっちぎりの不人気だった。メンバーも機体も、実力未知数とはいえ全くの寄せ集めであることは間違いなく、これといったレース用チューンさえされている様子がない。名目上リーダーである超雄星機からして、全身ドリルだらけの短足クラッシャー機という、冗談としか思えない代物であった。電光掲示板は、チームナンバー十三の単勝オッズが五百倍を超えていると、ぶっきらぼうに告げていた。

熱い砂地のトラックと、密集した六十機のガーディアンが満を持して吐き出すエンジン排熱は、コップの水にガムシロップを落としたような、猛烈な陽炎を招いていた。射撃の照準はアテにならないかも知れない。

だとすれば、最初から先頭を逃げる最前列チームには幾らか有利だ。これだけの機数なら、少なくとも第一コーナーを回るまでは、密集度がかなり高くなる。従って先行逃げ切りが有利になる一方、二列目以降のチームはそれを阻止するため、いきなり背後から容赦なく一斉射撃を浴びせてくるだろう。

信号ランプが動き始めた。あれほどの騒音を立てていた観衆は一気に静まり返った。

代わりに、低緯度の陽射しが発する音が聞こえてくるかのようであった。

信号がゴーサインに至った。合計何十万馬力もの鉄の猛馬たちが、くびきを解かれた。激しい楽曲の途中に不意に仕組まれたひとつの休符が過ぎ去ったかのように、時間は再び動き出した。




まずスタートと同時に策を仕掛けるのは、ペインの役目だった。ペイン機は肩に三筒装備された煙幕弾を前方に射出し、すぐに自らそれを追い抜いた。

最前列の三チームはいずれも発火前に通過したが、後方チームの一部は短時間ながら四塩化チタンの白い闇に呑みこまれ、混乱した。ペイン機はさらに後方に向けてショットガンを乱射し、威嚇した。減装薬では威力は期待できないが、雲の中で何機かが衝突した。

雲の向こうからも猛烈な応射があったが、ほとんどは見当違いの方向に散って行った。スタンドにも相当数が飛び込んだはずだが、退廃的な大観衆の大勢には何ら影響はなかった。初めからそれも覚悟の上、いやむしろ楽しんでいるのだ。

三チーム十五機はそれを尻目に、第一コーナー内側に向け殺到した。

奇妙な光景だった。ペイン機は足裏の車輪で、熱砂を蹴散らして驀進している。超雄星機も意外な事に、砂を苦にせずホバー走行で優雅に滑走していた。カガ=リン機とアリシア機は外見上、人間が小走りしている程度の様子に見える。ディオネード機は完全に歩いているとしか言えない歩調だ。だが全機とも、実際の速度はほぼ時速五十マイルで同等なのだ。それが彼らそれぞれの全力疾走であり、どこの設計者も共通して、戦場で最低限必要と考えたレベルということでもあった。

「まずは作戦通り、一歩抜けられましたね」
「短足と侮ってもらっては困るネ。フットワークが悪けりゃ、クラッシャーマッチなんて務まらんアルヨ。出場者自身の投票が禁止じゃなきゃ、借金してでもワタシたちの券、買いまくってたネ」
「さて、次は・・・」

全体的にチームナンバー三が先行していたが、うちディザスター級の一機はやや遅れ気味だった。支援用の自走砲と言えるこの機体は本来ならかなり鈍重であったが、余分な武装を外しチューンすれば、充分にレースに耐えるものではあった。ただ方向転換を片キャタピラの減速でしかやれない構造上、カーブではさすがに不利となる。

チームナンバー七は、全機が機敏なライトニング級だった。十五フィートほどの鉄パイプを携えた一機がディザスターの横に並び、鉄パイプをキャタピラに噛ませた。不快極まる軋み音と火花が激しく散って、キャタピラが転輪から外れ、ディザスターは急ターンしてトラック外に飛び出した。

コースアウトしたディザスターは失格、そして全機のゴールが不可能となったために、チームナンバー三全体も失格だ。観客の一部は早くも絶望の嘆きを上げたが、残りの大部分は一層興奮した。

勢いに乗ったチームナンバー七は、続いてチームナンバー十三に接近してきた。アリシア機が槍で牽制した。カガ=リン機は足を止めようと投げられた分銅付きの鎖を、剣で叩き落とした。

カーブを抜けてバックストレッチが近づき、第一の障害である丘陵地帯が見えてきた。「チッ・・・」

高さ数十フィートの築山を、ディオネード機は悠然とまたいで行った。他の四機は敢えて、あらかじめ解析したルートに沿って谷筋を進んだ。

チームナンバー七は、勇猛に尾根筋を突進しては頂上でジャンプした。彼らは谷に見え隠れして狙いにくいチームナンバー十三を襲うべきかどうか悩みつつ、結局は前進を優先した。むろんディオネード機だけは丸見えであったが、明らかに機体サイズが違い過ぎて攻撃は非効率だった。

だが、これで丘陵地帯を抜けるという位置で、ジャンプ中だったチームナンバー七のうち一機が集中射撃を浴びた。撃破には至らなかったが、そいつは着地に失敗し、派手に地面に叩きつけられた。

予想よりずっと早く、チームナンバー四が追いすがって来ていた。

彼らは彼らでディオネード機よりも、先頭を突っ走るチームナンバー七を優先的に妨害したのだ。

一機でもゴールできなければ全体の負けになるのは、すでにチームナンバー七が自ら実演済みだ。他の四機は慌てて引き返し、折れた脚で立ち上がろうとしている一機を引き摺っていこうとしていた。チームナンバー四と七は、真っ向から銃撃戦に突入した。

「ペイン、どさくさ紛れにゴロツキどもに二、三発お見舞いしてやったらどうアル?」
「よりによってグリムチェーキに加勢しろと?」
「左様、潰し合わせておくのが賢明であろうな。その隙に前進だ」

しかしチームナンバー七のほうが機体が小型で武器が貧弱なうえ、下手に丘陵地帯を抜けてしまったため、遮蔽物もなかった。射撃の腕も違った。チームナンバー四が明らかに優勢であった。

とうとうチームナンバー七の一機が追い付かれ、すでにボコボコにへこんだ機体をコース外へ蹴り飛ばされた時には、ディオネード機は次のトンネルに接近しつつあった。他の四機も、とうに丘陵地帯を抜けてかなり進んでいた。

撃つには少々距離が離れている。そしてチームナンバー四は、全機身長六十フィートという中途半端な機体サイズの都合上、ここは迂回路を使うと決めていた。

だがチームナンバー十三とて、ペイン機とディオネード機以外はトンネルで難儀するはずである。なのに彼らは迂回路になど脇目も振らず、真っ直ぐトンネルに突っ込みつつある。チームナンバー四は少々不思議に思いつつも、一糸乱れず迂回路をグングンと進んで行った。

ディオネード機が、トンネルまであと三十ヤードほどに達した。

するとディオネードは何を思ったか、急に両足を揃え、これまでの慣性を利用して機を前方に転倒させた。

だが地面に激突する寸前に両手を突き出し、腕立て伏せのような体勢で静止した。

「肩が少し高い。腰もだ」
「はい」

斜め後方から突っ込んでくるペインが指示し、ディオネード機は少しだけ関節を曲げて調整した。ペインは機体をよじって方向転換し、側方のトンネルに突入していった。

そして残りの三機がディオネード機に追突すると思われた時、三機は三十度弱の斜面となったディオネード機の背面を、猛然と駆け上がった。

チームナンバー四も含め、会場の誰もが驚愕した。

「いやっほお!」
「成功だ!呆れた作戦であったが、試して見るものだな」
「狙い通り、豆腐のヘンな四角さが役に立ったネ!OKアル、王子!」
「その王子ってのはやめて下さいと言ったでしょう」

三機が天井の上へ消えて行くのを見届けると、ディオネード機も天井へよじ登った。




圧倒的リードを得たチームナンバー十三は、最後の泥プールも難なくこなした。

ペイン機は順当に中央通路を駆け抜け、超雄星機は水面など意に介さずホバーで強行突破した。カガ=リン機は器用に幅跳びと空中姿勢制御を繰り返して、やはり通路を短時間に通過した。アリシア機は綱渡りよろしく、槍を天秤棒のように担いで回転モーメントを稼ぎ、バランスを取りながら走った。そして最後に追い付いてきたディオネード機は、膝下までしかない泥沼を平然と押し渡った。

トンネル迂回路を必死で走ったチームナンバー四も、他のどのチームも、もはや彼らに追い付くことは叶わなかった。




「只今の、メインレースの結果、は・・・一着、チームナンバー十三、タイム四分五十八秒三三。二着、チームナンバー四、タイム五分六秒四八。三着、チームナンバー九、タイム五分九秒一七・・・当選となります投票、は、単勝十三番、倍率五百三十六・八倍。複勝四-九-十三、倍率四十九・五倍・・・」

勝者を祝う紙吹雪代わりに、膨大な“外れ馬券”がスタンドを舞った。

超雄星はマシンを急停止させて降りるや否や、バンザイの姿勢で国王の表彰台に向け突撃した。その勢いに衛兵が身構えるのを見て、ディオネードは慌てて落ち着けと叫んだ。

他の三人はトロフィーよりも、周囲を落ち着きなく観察していた。どこかで待機していて、手下どもの“正攻法”の失敗を確認したグリムチェーキが何か仕掛けるとすれば、油断の多いこのタイミングだろうからだ。

狙撃か?爆破か?まさか、温存したガーディアンで強行突入してくるとは思えないが・・・?

だが結局、表彰式は何事もなく終了した。

大仰に泣き笑いながら、ついには遥か東洋のクラッシャーマッチの宣伝まで始めた超雄星のテキ屋口上に、初めは予想外の大穴勝利に憤慨していた大多数の観衆もやがて、大声を上げて笑っていた。

場違いなファティマ姫がほとんど誰の関心も惹かなくとも、無理はなかった。




“ファン”から控室に届けられていた贈り物は、全くぞっとしないものだった。

シャリフ王族女性を示す首飾りと、「ティボ・クレーター トロフィー」とだけ書かれたメモ。

「間違いありません。ファティマ姫です」ディオネードは歯噛みした。「ティボ・クレーターは、ここから三十マイルほどの山地にある隕石の落下跡です」

「すまぬ。グリムチェーキに監視はつけておいたのだが、大会の雑踏に紛れて見失っていたそうだ。奴自身は、やはり出走してはいない。単独で行方をくらましておる」カガ=リンは受話器を置いた。「そして今、チームナンバー四の連中も、マシンを放置して消えたそうだ」

ディオネードとアリシアは、要求に応じることを主張した。ペインと超雄星は、王女一人とアビスゲートでは比較にならないとして反対した。

そして、しばし四人の口論を眺めていたカガ=リンは、一人でトロフィーだけを持って来いとは言われていない事と、グリムチェーキをこのままにしておけないという点では全員一致している事を指摘した。

「正直なところ、姫自身にさほどの価値はない。それは連中も同意見であろう。ただ、トロフィーよりは奪い易かったというだけだ」カガ=リンは冷水をひと口飲んだ。「そして連中は、トロフィーを受け取って逃げたとて、我々に追撃される事も承知している。実際ペイン君らが言うておる通り、我々は、場合によっては姫とトロフィーを丸ごと核爆弾で蒸発させてでも、S級アビスシードが連中に渡る事だけは阻止しようとする可能性大だからだ。逆に、我々が全く要求を無視してトロフィーを持ち去ったとしても、新たな脅迫を仕掛けるか、最終的にトロフィーを保持する誰か一人を、向こうから襲撃するのみであろう」

「もとより奴らは取引と言うより、僕たちとここで決着を付けておく気だという事ですね」
「然り。自ら用意した有利な土俵でな」
「まず、罠だらけだろうな。気に入らないな」
「さりとて、当地のフォーチュン支部は小規模だ。ガーディアンは吾輩の一機しかない。王国軍にはもう少しあるが、国境警備などで広範囲に分散している。他の負けチームは、我々の表彰式など眺めておらんで、とうに帰ったな。フォーチュン本部が本格的なトロフィー確保部隊を送って寄越すにも、いまだ数日を要する。守っても有利にはなるまい」
「あたしたちにとってもむしろ、アトでネラわれるのをマつよりは、いまがチャンスってことだね。どのみち、ヤツがそこにいるのなら、あたしはヒトリででもいくけど」
「もうこの国に用はなかったアルが、仕方ないネ。もう一肌脱ぐネ。敗者復活のくせにシード枠とは、全くやってくれるネ」

優勝者たちは格納庫に引き返した。




0 件のコメント:

コメントを投稿